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能登地方における英語ガイド育成 カリキュラム構築事業

  • クライアント
能登DMC様
  • 業種
DMC
  • 提供サービス
ガイド育成・セミナー企画

Overview

2024年に発生した能登半島地震によって、能登エリアでは甚大な被害がありました。災害が重なり現地の住民人口も減るなかで、観光業でも従来のような「楽しむ」だけの観光が難しくなり「能登の観光をいかに活性化させるか」という課題が残っています。

以前から能登にはインバウンド向けのガイドが少なく、現役ガイドの多くは国内旅行者へ向けたものでした。インバウンド向けのガイドを実施するため、他の地域からガイドを派遣して対応する例もありました。しかし、災害で状況が大きく変わった昨今では、他の地域からガイドを派遣するよりも現地で生活している住民から直接、実情にもとづくガイドを提供することで深みのあるツアーを実現でき、ガイドと旅行者の双方にとっての利益に繋がるとの考えに至りました。

そこで、復興支援の一環として複数の企業と協力のもと、能登での観光ガイド育成を目的とした2日間のセミナーを行いました。当社ではインバウンド向けのガイドの仕方について、1日目に座学での講義を行い、2日目には現地を回って実践的なガイドのシミュレーションを行いました。

Work Details

現地視察:能登エリアの現状を学ぶ

まずは震災後の能登で、観光業の現状がどのように変化したのか、現地視察をしました。日本国内ではインバウンド旅行者数の増加に伴い、インバウンド向けのガイドも増えていますが、能登では依然としてインバウンド向けのガイドが少ない状況です。本セミナーの参加者には震災の影響で職を失い、ガイドへの新規参入を検討している人もいるなど、能登ならではの実情を踏まえ、セミナーではインバウンド対応に精通せずとも理解できる内容を目指しました。

専門家との連携:自然災害と文化形成の意外な関係を辿る

能登における地震については、長年にわたり地震の研究に携わってこられた大学の先生方のご協力を得て、地理的・歴史的な観点から学びを深めました。

ここでは、能登の観光資源などが数千年単位にわたる地震の跡から形成されていることを学びました。例えば、地震によって地表に上がった珪藻土があることで、全国的にも有名な輪島塗りの塗料が作られ、地震で地形が変わった影響で千枚田が形成され、能登ならではの景色が見られるなど、古くから能登と地震は切り離せない関係があります。観光分野とは異なる地学的な知識が含まれる内容でしたが、厚みのあるガイドを提供するには地域に根ざした学習が欠かせませんでした。

セミナーの企画:多文化視点の重視

当社の担当セミナーでは、日頃からインバウンド旅行者へのガイド対応を行っているスタッフが企画と運営を実施しました。当社ではガイド業務のみならず、宿泊施設の運営や通訳・翻訳業務を通して、インバウンド旅行者が日本のどのような点に関心をもっているのか、日本でよくある困りごとなど一次情報に基づいた知識を多く蓄えてきました。本セミナーでは、そうした知見の共有に留まらず、地震という現象が世界共通の経験ではないという前提も重視しました。地震がほとんど発生しない地域では、「地震とは何か」といった基本的な認識すら持たれていない場合もあるからです。こうした背景をもとに、本セミナーの企画にあたっては、多文化的視点を踏まえて構築することを重視し、それによって厚みのある内容となることを目指しました。

セミナーの実施:ガイド経験を活かした柔軟な進行

インバウンド対応への専門知識を組み込みつつも、本件ではセミナー参加者の理解度を意識し、多くの例を挙げることでストーリー性を持たせ、最後まで飽きさせない構成に仕上げました。準備過程で学んだ地理的な内容も交えつつ、協力企業とも打ち合わせを重ねて綿密に企画しました。

セミナー当日はガイド業務と同じように、参加者の反応を見ながら講義を進めました。ガイド中は口頭での会話が主であり、インバウンド向けのガイドでは特に、パンフレット等の資料を読むよりも、旅行者と現地ガイドとの会話に需要があります。ツアーで回る場所以外のトピックについても話題に挙がるなど、想定外のイレギュラー対応が求められることも多々あります。その際には台本通りの解説を押し通さず、その場の雰囲気を尊重する柔軟な姿勢が求められるのです。

本件では可能な限り有意義なセミナーを作るため、当日の講義ではインバウンド対応に関して参加者の理解度に合わせることを重視しました。特に2日目のデモンストレーションでは、参加者の大半が既に知っているような内容であれば手短に留めたり、難しい部分では手厚くサポートしたり、普段のガイドや通訳における実地経験を活かして柔軟に行いました。

Summary

本件は補助金事業の一環でしたが、当社では単発のセミナーではなく、能登の復興と、長期的なガイド育成を目標とする支援事業と捉えています。今後も当社ならではの関連事業を主体的に行い、能登の地元ガイドが観光業を生業にできるよう、持続可能な循環を作る支援を継続していきます。