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「没後120年 エミール・ガレ:憧憬のパリ」 図録論文翻訳(仏日翻訳)

  • クライアント
富山市ガラス美術館様
  • 業種
博物館、美術館
  • 提供サービス
図録に掲載する論文のフランス語→日本語翻訳

Overview

アール・ヌーヴォーを代表するガラス工芸作家であるエミール・ガレ。彼の作品の世界観は、視覚的な美しさにとどまらず、繊細な技法と深い思想が融合した多層的な魅力を備えています。

2024年11月2日(土)~2025年1月26日(日)*1にかけて、富山市ガラス美術館にて開催された企画展「没後120年 エミール・ガレ:憧憬のパリ」では、パリ装飾美術館の主任学芸員ジャン=リュック・オリヴィエ氏による論文が図録に掲載されました。当社では本論文のフランス語から日本語への翻訳を担当しました。

*1サントリー美術館(東京)での会期:2025年2月15日(土)~4月13日(日)

Work Details

翻訳者の選定とチーム体制

本論文には、美術的な視点に加え、19世紀末のフランスの社会背景や歴史的文脈にも言及がありました。そのため、フランス美術に精通した翻訳者を起用するとともに、歴史的な記述の正確性を担保するために、事実関係のリサーチを丁寧に行いながら翻訳を進行しました。

一方で、図録という性質上、専門的でありながらも読者にとって読みやすく自然な日本語表現が不可欠です。そこで翻訳後は、エディターとスタイルチェッカーによる二重のレビュー体制を敷き、訳文の精度と文体の統一感の両立を図りました。

専門用語への丁寧な対応

本案件における翻訳上の大きな挑戦のひとつは、ガラス工芸に関する専門用語への対応でした。翻訳対象には、ガレが用いた独自技法や素材名が登場します。日本語では一般的でない表現も多く、正確性を期すために、逐一参考文献や実物写真を参照しながら用語選定を行いました。

また、図録内での作品解説については、原文が実際の作品のどの部分に対応しているかを逐一照合し、記述と実態が乖離しないよう確認を重ねました。これにより、読者が作品と文章の間に違和感を覚えることなく、展示の世界観に没入できる構成を目指しました。

また、単に訳語を当てるだけでは読者の理解が難しいと判断した表現については、文脈に即した補足や意訳を加えるなど、読者の可読性を高める工夫も施しました。

詩的表現への挑戦と工夫

ガレの作品は、文学的・哲学的な要素を多分に含んでいます。本文中にも詩的な表現が随所に散りばめられており、単なる直訳ではその余韻が損なわれてしまうため、日本語においても詩情を湛えた表現となるよう丁寧に調整を行いました。

とりわけ本文の締めくくりには、ガレへの敬意を込めたフランス文学作品の一節が引用されています。この一節は非常に美しい響きを持つ反面、フランス語特有の含意や余韻を含んでおり、日本語にそのまま置き換えても読者に伝わりづらいという課題がありました。同時に、論文の最後を飾る重要な一文として、意味の忠実さと詩的な響きの両立が求められました。

そこで、引用元となる文学作品を調査・読解し、この一説の込められた背景や文脈を正確に理解した上で、翻訳に取り組みました。

高い創造性を要する意訳ではありましたが、ガレの思想と重なるような日本語表現に昇華させることを目指しました。

Summary

本案件は、美術・工芸・文学・歴史といった複数の要素が重なり合う、専門性の高い内容でした。

専門知識・表現力・編集視点を兼ね備えたチーム体制を社内で組成するとともに、美術館ご担当者様にも事実関係の確認などで多大なるご協力をいただけたことにより、内容の精度と読みやすさの両立を図ることができました。