さて、前回のご紹介、イギリスで今年流行した英語の流行語につづき、今回はアメリカの流行語 ”Gaslighting” についてになります。
Gaslighting(ガス燈をつける)
先入観なしに単語だけ見ると、なぜこの言葉が今年の流行語なんだろうと思ってしまいますね。具体的な意味は「相手を徐々に心理的にコントロールし、正気を失わせていくような行為」を指します。
これはイギリスの戯曲家/小説家パトリック・ハミルトン が1938年に発表した戯曲「Gas LIght」 に由来しています。
妻を精神的に追い込み、衰弱させたいと願う夫が、ものがなくなったり、ガス燈の明るさが変わったりするのを、妻自身の精神状態がおかしいからだと思い込ませることで、妻を追い込んでいきます。
なぜこの言葉が流行語になったのか。
日本語と同じように、英語にもさまざまな、嘘 (lie)を表現する言葉があります。近年ではネット上で、fake news(フェイク ニュース)、conspiracy theories(陰謀論)、trolling(荒らし)、deepfakes(ディープ フェイク)など、新しい、嘘や偽情報にまつわる言葉が現れています。
gaslighting は本来、夫婦や交際中のカップルといった男女間で使われることが多かったのですが、現在ではネット上で使われ方が多様化し、ネットいじめや誹謗中傷、マインドコントロールといった広範囲な意味で使われだしたことから、流行語となったようです。
本来のgaslightingとされる発言の例:
You’re too sensitive. 君は繊細すぎる。
gaslighting を行った側(gaslighterといいます)が責任を逃れようとし、相手の被害感情は、相手自身が過剰に繊細であるからだと主張し、相手を攻撃しています。
I’m sorry you think that I hurt you. 君を傷つけたなら、すまなく思う。
この発言は一見、謝罪しているように解釈できますが、実際は異なります。”もし~なら”と仮定することで、相手が、感情を傷付けられたと自身が過剰に思い込んでいるだけではないか、と思わせるように仕向けています。
多様なgaslightingの使用例:
I’ve been gaslighted by TV commissioners during my career.
現役時代はずっとテレビ局の理事らからガスライティングされてきた。
My doctor is gaslighting me.
医者が私をガスライティングしている。
これは、medical gaslighting (医療ガスライティング)とも呼ばれており、病院において、弱い立場の患者が、自分の症状の深刻さを医師に軽視されてしまうようなことです。
情報に容易に振り回されがちな現代において、自分がガスライティングされていないか、あるいはガスライティングしているほうなのか、意識することをはじめてみてはどうでしょうか。
参照サイト:
https://www.merriam-webster.com/words-at-play/word-of-the-year/gaslighting
https://www.insider.com/guides/health/sex-relationships/gaslighting-examples